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ショート・ショート星新一風 『K公民館の惨劇:43分』

 粗忽家勘朝。主人公
 K公民館への経路はネットで何度も何度も検索していた。
 前日には、何枚も印刷して頭の中に叩き込んで、安心した彼。

 いつもより早く、家を出た。バイクのアクセルを吹かした瞬間、スマホにライン。
 「す〇から、だろ(笑)。心配症なんだから。」
 と高(たか)をくくった勘朝。
 その高が後で何倍にもなって帰ってくるとも知らず、
 あまりにも無防備にバイクのアクセルを吹かす

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 その朝も彼の愛車「HONDA FTR223」はご機嫌なスタートを切った。
 干隈三差路を折れるまで御機嫌は続く。

 九電研修所を左に観ながら鈍角に左折。
 池のある公園を発見しながらさらに左折。
 「楽勝、楽勝。」
 とどこまでも能天気なバカ。

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 池を左折したあたりから急に雲行きが悪くなってきた。

 ほとんど類を観ない小道、急坂に遭遇。
 30度位の坂なら名車「FTR」にとって艱難辛苦ではない。
 ただ、彼のバイクテクニックが追い付かない。坂道発進で何度もエンストしながら前進。

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 完全に「八甲田山」状態。時計を観るともう開演まで30分しかない。
 ツガニの泡吹き状態

 あちこちで人に聞きまくる。丁寧に教えてくれる。

 一周して同じ方に尋ねる。
 (Rの噺に似たようなシーンがある。演目は忘れた。)

 スマホから地図サイトの音声
 「到着しました。」
 「よっしゃー!間にあったぜい!」

 と雄叫び。誰も人が通ってない。

 ところが公民館らしき建物は全くない。

 たまたま、通りかかった人に尋ねると、
 「K公民館!ソコに見えているあれですよ。」
 いわれて、みると屋根が見えている。
 「ありがとうございました!」と木で鼻をくくった御礼だけ残して屋根へ向かって一直線。
 「FTR」はご機嫌にスタート。

 ところが、公民館への道は全く見当たらない。建物の壁は見えるのに。

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 だんだん物理的な時刻は迫ってくる
 自信家勘朝のもろい自信がぐらつく。

 意を決して、一旦大きな通りに出て、ようやく、「K公民館」への立て看板を発見
 この時ほど看板に御礼をしたくなった時はナイ。

 普段は「税金の無駄使いだろ!」
 市長への匿名手紙でも書いてやろうかと思っていた彼。
 あまりの節操のなさに打ちひしがれるのは6時間15分必要。

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 勘朝が立て看板を見つけてた頃、す〇はもう(高座)にあがるのは自分しかないなと思ってた。
 「今日も化粧ののりはよし!着物に隙はない!CDはOK!
 まてよ、誰がCD変えるの?
 あのボケ会長。と〇との言う通り『勘朝さんハゲ親父』なんだから。
 どこまで人に迷惑かけるの!」
 と考えていた(だろう)。
 (ごめんね、す〇。)

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 そこへ勘朝登場。開演前15分。
 毛氈を敷き直し。幔幕(まんまく:歌舞伎用語)をかけて会場はOK。開演前10分を切った。

 勘朝はココまで来て自分の焦りを隠さんがために、平静を装って着替え。
 正絹の帯正の帯はキュッと絹ずれを残して全く緩まない。

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 で、す〇とCDの打ち合わせをして開演前、なんと3分
 心拍を押えるのに5分は必要。

 そこへ、捨てる神あれば拾う神あり。
 行政の係長クラス辺りが
 「2分、あいさつさせてください。」

 「もう面倒なんだからだから行政は嫌なんだよね。」
 と、ホントは小躍りしたいくらい嬉しい勘朝。いやいやモードを発しながら
 「しかたありませんねぇ。ほんすんぽうしゃないけど、でしょう。」
 と、恩を押し付ける。ホントに嫌なヤツ。だから嫌われる。
 本人が気づいてないから始末に負えない。

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 途中ネタは飛ぶわ、滑舌は回らないわ、散々な高座。
 自分だけならいいのだが、す〇の踊りCDを間違えるなど
 とうてい考えられないしくじりを犯す。

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 なんとか終了時間まで行きつく。家を出てから43分。
 す〇は怒り心頭だけど、そこは育ちの良さでぐっと抑える。

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 トラブルはこれで治まらなかった。なんとギャラが一人分しか出ない。

 す〇の怒りは完全に沸騰点に達している。
 ソコに気付くのが遅すぎた勘朝。

 気付いた時には、す〇の手は懐刀の柄をしっかり握っていた。
 
 おののいた勘朝、K公民館館長とネゴシエーション。
 来年の仕事をくれることで決着。

 ようやく、す〇の怒りが溶け始めてきた。

 その上朗報。公民館主事さんの粋な計らいで二人分のギャラが出そうな雰囲気。
 す〇の表情に「♪」が浮かんだ。

 ホッと胸をなでおろした勘朝。
 
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 人生でもっとも心臓がバクバクの43分間。

 K公民館のことはまた後日。
 今回は、素晴らしい公民館だということだけで了解してもらいたい。

 「そこがお前の甘さなんだよ。」
 と口汚く罵ってくれる会員はいない。皆イイ連中ばかり。
 「だから、お前のようなバカがのさばるんだよ。」
 陰の声は彼には届かない。能天気はある意味幸せなのかもしれない。

 気のいい、彼の愛車「HONDA FTR 223」はじっと待っててくれた。
 熱いものが込み上げてきた。

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2017年11月06日 18:45に投稿されたエントリーのページです。

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